Vol.33-6 ジロ・ストーリーPart6

癌!?

 2006年2月、僕は川崎市麻生区から横浜市保土ヶ谷区に引っ越すことに なった。それも離婚という代償付きで… これについては、ただひたすらに僕自身の責任なのだが、とにかく離婚とともに引っ越しをするにあたりジロをどうす るかが問題になった。無い知恵を絞った結果、僕は親戚(従兄)の家に転がり込むことになった。その家(←現在の住まい)は一戸建てで犬を飼うにも問題はな さそう、ということで従兄に頭を下げ、ジロを連れて押し掛けたのだ。そう、ジロにとっては生涯2度目の引っ越しである。しかし、当の本人は相変わらずのマ イペース。横浜へと引っ越す日、ジロを撫でながら別れを悲しみ泣く妻に対して、いつもと変わらぬ反応しか見せないジロ… いつも通り、撫でようとする妻の 手を振り払う仕草すら見せて、である。そのいつも通りの仕草が、その時だけはやたらと悲しかったりしたし、その時ほど離婚という事態を招いたことを悔いた ことはなかったのだが…
 ともあれ、引っ越しは何の問題もなく完了した。ジロは、というと、新しい住処に何の違和感も持つことなく、むしろ新しい環境や散歩のコースが楽しくて仕 方ない、といった様子。彼にとってはどこに住もうがどこを散歩しようが、ちゃんとご飯が食べられて好きなように過ごせるのであれば、どんなところでも良 かったのだ。そんな犬であったので、その後、僕が仕事の都合で留守にする際にKさん宅に預けるようになっても、ジロとしてはただ単に「快適に過ごせる場所 が、また1つ増えた♪」といった程度のことだったに違いない。

 こうして横浜での生活も、平穏に過ぎていった。川崎市にいた頃に比べて走る速さや散歩用のリードを引っ張る力は衰え始めていたものの、犬らしから ぬ行動としばしば見せる人を喰ったような表情は相変わらずであった。むしろ、結婚時代に比べて仕事で留守にすることが多くなったことで、頻繁に自宅とKさ ん宅を行き来することが、老年期を迎えたジロには良い刺激になっていたように思う。
 2009年11月… この年の年末に地方での仕事がいくつか入っていた僕は、例によって別宅のKさん宅にジロをお願いするつもりでいた。我が家では決し て与えられない「犬用栄養ドリンク」とか豪勢なオヤツを、ジロもさぞや楽しみにしているだろうと思ってた矢先のある夜、散歩を終えたジロが突如悲鳴を上げ た。前述した通り、痛みには人一倍鈍感?な犬だったので、その悲鳴にはさすがに僕も驚き、あわてて庭に出てみると… 何かの痛みに必死に耐えながらガタガ タと震えている姿が目に入ってきたのだ。これは尋常じゃないということで、かかりつけの病院へすぐに連れて行った。この病院というのは、離婚後に僕の仕事 場近くで見つけた「かねまき動物病院」という病院で、ちょっとした治療やペットホテルに預けるなど、何かとお世話になった病院である。ジロが、ここでもす ぐに先生や看護婦さんに顔と名前を覚えられたのは言うまでもない。
 ともかく、その「かねまき動物病院」にジロを連れて行き、あれこれと調べてもらった結果、彼の体内に進行した癌が見つかったのだ。その痛みが彼に悲鳴を 上げさせたことが判明し、そのまま入院。4日後、その癌を除去する手術が行われた。結果、無事に腫瘍の除去に成功。犬の生命力とは恐ろしいもので、手術し て2日後には病院内をよろめきながらも歩き回るジロの姿があった。しかも、すでに「もう、ここの中は飽きたよ〜」という顔である。あれだけ好きな病院で も、数日すると飽きがくる… そんな「気が散りやすい」犬だったのだ。