Vol.33-2 ジロ・ストーリーPart2

ジロ騒動記1

 なんだ、フツーにペットショップで買ってた方が体調管理も行き届いてるし、 お得だったじゃん?…というハプニング?を経て、(2代目)ジロは我が家の一員となった。将来、もしかして大型犬になるんか?という僕と妻の不安をよそ に、まだ生まれたてだったその子犬は体調回復後には早速、いかにも子犬らしいイタズラをやらかし始めた。
 基本的に「犬は外で飼うもの」と決めていた我々は、猫の額ほどの庭に囲いを作り、その中でジロを生活させることにした。とはいえ、まだ子犬であるからに は、本来は母親犬のお腹にもぐりこんでヌクヌクしたいだろうからと、寝る時にはわざわざ湯タンポを用意して玄関の中で寝かしつけたりしていた。昼間、僕な り妻なりが家にいる時は雑巾で足の裏をキレイに拭き取った後、部屋の中に入れて遊んだりもしたのだが… とにかく、彼(ジロ)が起きている間は家の中で走 り回り、落ち着かないこと、この上なし。そのうちに、部屋の中にある様々なモノを自分の遊び道具にし始める… ゴミ箱をわざとひっくり返してサッと逃走…  ティッシュの箱からティッシュを何枚もくわえ出して散らかす… さんざん動き回って空腹になると、こちらの頭にキンキン響くようなカン高い声で鳴きまく り、決めていた食事時間以外の食事を要求…などなど。こちらがその度に叱ると、それすら「自分と遊んでくれている」と勘違いしてテンションがさらにアップ するのである。まあ、いかにも子犬らしい所作であったのだが…
 ある日、僕と妻が共に外出する為、庭の囲いの中にジロを放して出かけたことがあった。その夜、帰宅してみると、何とジロが囲いの外の玄関先で覚えたばかりの"お座り"をして我々を待っていた。
「あれ? オマエ、どうしたん?」と僕。「囲いの外に出ちゃって戻れなくなったの?」と妻。しかし、その直後、我々の視界に入ってきたのは、当時妻が大事 に育てていた、ささやかな家庭菜園が見るも無惨に引き抜かれた光景だった。当のジロは「どう? すごいでしょ?」とシッポを振って我々を見つめている。  …その瞬間、僕が烈火のごとくジロを叱ったのは言うまでもない。

 たぶんジロには「イタズラをした」という認識はなかったように思う。ただ単に「これ、おもしれ〜♪」という感覚のみがあったのだ。であるから、た とえその瞬間に猛烈に叱られたとしても、なぜ自分がそんな目に遭っているのか、半分も理解していなかったように思う。叱った直後はシュンとなるものの、そ の数分後には、また別の何かをやらかす… ジロの子犬時代は、そんなことの繰り返しだった。

 ジロが我が家に来て半年もすると、早くも彼の体格は思わず「お?」と感じるほどの大きさになりつつあった。しかし彼自身は、そんな自らの体格に対 する自覚などは微塵も無く、子犬だった時と同じように僕や妻にジャレついてくる。…いや…「ジャレつく」というのは、あくまでもジロの感覚であり、こちら にしてみると「中型犬に飛びかかられた」という感覚なのだ。当然、体にもそれなりの衝撃というかダメージを与えられる。
 そんなジロであるから、僕が担当?となった朝晩の散歩は、完全に体力勝負となった。何しろ、元々がソリを引いて走れるシベリアンハスキーの血を持った犬 であるからして、若い時の体力は、こちらからすると"底なし"と思えるほどなのだ。いつしか、ジロと散歩に出て1時間経過などということは、当時の日常と なっていった。

 ところでジロの性格だが… どこでそうなったのかは不明だが、とにかく無警戒、すべてに安心し切って楽しく毎日を過ごせる犬だった。我々飼い主が出かけ る時に、いわゆる「追い鳴き」をすることもなく、ただ「あ、出かけるんだ」みないな顔をして我々を見送るだけ。その後は、ノンビリ1人で過ごす。宅配とか 郵便の配達員さんなど、日頃は彼の目に触れない人物が家を訪ねて来た際に吠えることもなく、むしろシッポを振って見ているだけ。寝ている時などは、呼び鈴 に気づかないことさえあった。妻は「オマエさ〜、犬としてどうなの? その態度は…」とよくジロに向かって語りかけて(=こぼして)いたものだ。
 そんな犬であるから、動物病院に連れて行こうが、狂犬病の注射会場に連れて行こうが、怖がったり怯えたりすることは一切なかった。これは、飼い主として は非常に助かった一面だと思う。先代のジロもそうだったが、普通、飼い犬というのは自分の主人(飼い主)から離れて病院に預けられるとか、他の犬がキャン キャンと悲鳴にも似た声で怯えまくっている狂犬病の注射会場に行かれることを非常に嫌がるものなのだ。しかしジロの場合、そういう時には「他の犬や猫に会 える〜♪(ルンルン)」なのである。狂犬病の注射会場では、自分が注射されているのにも気づかず、他の犬に(犬なりに)話しかける仕草が何度も見られた。 「よっ! オタク、どこから?」という感じで… そんな時、他の犬の飼い主さんからは「まぁ、おりこうさんなワンちゃんね〜」と言われるのだが、我々飼い 主からすると「いやいや、ただのアホ犬なんです」と苦笑いするしかなかった。我々が旅行などで病院に預けに行った時も、病院が近づくと車の窓から顔を出し て喜ぶだけでなく、到着後は一目散に病院に入りたがる。病院のスタッフよりも先に、自分が預けられる部屋に向かって走り去っていくのだ。当然、飼い主たる 我々を振り返ることなど一切なし、である。
 そういう意味では、僕としては先代に比べて非常に飼いやすい性格の犬になってくれたと言える。もちろん、何がキッカケでそうなったのかは、実は今だによくわからないのだが…