Vol.33-1 ジロ・ストーリーPart1
2代目襲名
2011年4月30日17時、約16年に渡って飼っていた犬のジロが他界した。中型犬と大型犬の中間ほどの大きさだったジロにとって、16才という年齢は人間に換算すると、おおよそ80〜90才。つまりは立派な大往生だったと言える。
飼い主の僕が言うのも変だが、彼(←ジロはオスだった)は行く先々で誰からも愛され、それどころか、自分のことは誰もが可愛いと思ってくれているハズ で、この世に自分を嫌う、もしくはイジメるような者(←人間に限らず)などは居ないという、妙な信念を持っていた犬だったように思う。まあ、それは傍から 見れば、あまりの無警戒さであり、犬としてどうなのか?という不安すら覚えるものではあったのだが… とにかく、そのトボけた表情と態度は、僕と、当時一 緒に暮らしていた(元)妻を何度となく和ませてくれたものだ。
そんなジロとの出会いは1997年の2月… 「大変、大変〜!」と買い物に出ていた(元)妻が飛ぶように帰ってきたことに始まる。
「駅前の道ばたでオジさんが犬を売ってたのよ! その中に、すんごく可愛いコが居たの! ちょっと一緒に見にいかない?」
…当時、身分不相応な一戸建てに住んでいた我々は、文字通り猫の額ほどの庭を眺めつつ「犬でも飼ってみたいね〜」などと呑気に語り合っていたのだ。そんな話をしていた時に出会ったのが、ジロである。
妻に連れられ、駅前に行くと確かに1人のオッサンがネコやら犬を数匹、ゲージに入れて展示(?)していた。周囲は軽い人だかりとなっていて「キャ〜、可愛い〜!」などと歓声をあげていた。
「あのさ! 買わないなら触らないでくれる? 病気とか移っちゃうから! ホラ! そこ! 触るなってば!」
オッサンは常時"怒りモード"だった… 要するに、変で怪しげなオッサンなのだ。そんな雰囲気の中、「ちょっと見せてもらってもいいですか?」と我々。
「あ? 買う気あるの?」とオッサン。
「そうですね〜、ちょっとそういうふうに考えてて…」と僕。
そこでオッサンが1匹の子犬をゲージから出してくれた。
「ホラ、コイツ。おとなしくて良いコだよ」
横にいた妻がその犬を抱き上げる… もう完全に"買う気"モードである。もちろん、僕も、である。
「いくら、ですか?」と聞くと「2万円にしといてあげるよ」とオッサン。
「しといてあげる」ってことは、安くしてくれたのか? ペットショップだったら10万とかするもんなぁ…などとボンヤリ考えていると、続けてオッサンがこう言ったのだ。
「こういうのってさ、出会いだからさ。きっとコイツはオタクらに飼ってもらいたいんだよ」
その日、どこでどう2万円などいう金を工面したのかは忘れてしまったが、とにかくその日の夕方には、我が家に1匹の子犬が同居することになった。
「名前、ジロにしようか」と僕。
ジロという名前は、中学時代に実家の前に犬が捨てられていたのを、当時小学4年生だった弟が拾い、転勤族だった親父の「いずれ引っ越すんだから飼っては ダメだ」という反対を押し切って飼うことになった犬に名付けたものである。案の定、僕が大学1年の夏に親父の転勤が決まり、引き取り手を探したものの、す でに7才になっていた犬を引き取ってくれる家は無く、やむなく保健所に引き渡す羽目になった。すでに東京で1人暮らしをしていた僕に「今日、お父さんがジ ロを保健所に連れていったわよ」とオフクロから電話をもらった夜、何とも言えない悔しさと悲しみに襲われたことを、僕はその後もずっと引きずっていたの だ。
「今度は最後まで面倒見るから、オマエは2代目ジロだ!」と僕は、その子犬を自分の目の前に抱き上げて言い聞かせたのである。
2代目ジロと命名された犬は、よく見るとシベリアンハスキーと秋田犬が混ざったような雑種だった。子犬なのに、妙に足が太い… もしかしてデカくなる? 大型犬か? …そんな不安がちょっとだけ頭をよぎった。
当の本人は、我が家に来た日の夜から食べたものはもどすわ、変な咳は止まらないわ、という騒ぎを起こす。
「もしかして病気持ち? このまま死んじゃう?」と不安になった我ら夫婦は、翌日すぐにジロを近所の動物病院に連れて行った。そして、診断の結果、内臓が 弱っていること、喘息の発作を起こしていることなどを告げられた。3日間、点滴やら食事療法やらを施され、どうにか治ったものの、かかった費用はペット ショップで由緒正しい犬がフツーに買えるほどになっていた。
「いきなり、こんだけ金がかかったんだから、オマエには長生きしてもらうからな!」と勝手な言い草をジロに押し付け、ようやくジロとの生活がスタートしたのである。